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「支払い」と「消費」のタイミング

大御所、ベッカー教授とマーフィー教授による論説。
他の学者のコメントに比べると、今回の景気刺激策の効果についてはやや懐疑的。乗数効果は1に満たないだろう、という意見。つまり、10億ドルを財政政策に投入しても、それによってGDPは10億ドル以上は拡大しない、ということ。

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財政政策ってのは最近の実証研究だとイマイチ効かない、というのが主流の評価。それに副作用が多い。「今だけ」緊急時だからやる、っていっても、歴史を見るとどの財政政策もその必要性がないと思われるような時期にいたっても続けられている。これは公的資金を大量に使うこと自体が、いろんな利権、既得権益を生むから。うまい汁を飲んだ人たちはそう簡単には去らない、ということですな。

それに財政政策は、民間の投資と同様、タダでやるものじゃない。米国ではとんでもない金額を投じているが、それも将来的には税金という形で企業や国民から回収する。打ち出の小槌というものはなく、将来のサイフからカネを前借しているだけ。異時点間の資源配分をしているだけ。

ただこの「異時点間」というのがクセモノで、人のサイフのヒモを緩めさせる効果を持つ。以前の記事でも書いたように、人の金銭感覚は完全合理的な経済学的判断に支配されているわけではない。100万ゲットする喜びよりも100万損する苦痛のほうがデカかったりする。いつもならしないような大きな買い物も、「自分へのごほうび」という別勘定で考えれば、平気で出費したりする。これは心理学の分野では「Mental Accounting」といわれている。

面白いのは、「支払い」と、実際にその支払いの対価として得た財・サービスを「消費」するタイミングがずれるほど、カネを使っている、という実感(苦痛)が少なくなることだ。例えばフィットネス・ジムの料金は、たいていは月額製や会員制だ。あれには理由がある。ジムを使うたびに料金を支払うシステムにすると、「支払い」と実際に「トレーニングする(=消費)」がドンピシャで、出費に対する喪失感が強い。カネ払ってわざわざつらい運動をしている、とかいう感覚もこれを強化するのかもしれない(笑)。

このようにPay per useだと出費の苦痛感がでかいので、例えば月額固定で使い放題にする。そうすると客は安心する。でもジムはしんどいし他の予定が忙しかったりするので、月に2~3回しかいけないことも多く、Pay per use制の場合と比べても出費総額は変わらなかったりする。それでも客は月額固定を選好する(実験でも実証済み)。

このようなPay per useを嫌がる消費者の心理を、「Taxi meter effect」とも言う。タクシーのメーターを見ていると、どんどんカネを吸い取られていく気がしないだろうか。アレである。これも「支払い」と「消費」がべったりタイミングが重なっているから、そういう心理的影響を及ぼす。この場合、別に金額の多寡はあんまり重要じゃない。
クレジットカードの使用も、このタイミングがずれているから、ついつい浪費してしまうのかもね。

ほんでもって、この「支払い」と「消費」のタイミングがえらい乖離しているのが、上記の財政政策をまかなうための税金や、日本での年金だったりする。特に日本の年金は、そもそもてめえで払った分が上の世代の年金にあてられるので、余計タチが悪い。負担感を感じにくい。(さすがに最近は議論も多いので、実態はだいぶVisibleになっているとは思うが)。スウェーデンとかはメチャ税金が高いが、それが何に使われているかは日本と比べるとはっきりしているので、国民の許容度も高いのではないか、などど思う。税金が高いかどうかというのもあるが、その使い道がどれだけVisibleであるのか、「支払い」と「消費」の関係がよりはっきりすれば、財政規律も働くような気がする。ま、その関係が不明瞭なほうが得をする、上記で述べた利権団体もいるので、コトはそう簡単ではないのだけれども。

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ブログ王

  by helterskelter2010 | 2009-02-11 16:35 | Research

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