JHUMPA LAHIRI ジュンパ・ラヒリ ―「INTERPRETER OF MALADIES」

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ジュンパ・ラヒリ。インド人、ロンドン生まれ・アメリカ育ち。何と32歳にして、オー・ヘンリー賞(Third Prize)・ヘミングウェイ賞・ニューヨーカー新人賞・ピューリッツァー賞 フィクション部門を受賞。ピュリツァーだって?あのCormac McCarthy(No Country for Old Menで有名)が70代で獲った賞だぞ。ウムム。ラヒリ本人の写真を見ると、「顔セレクションあったんスかね」と疑いたくなる容姿。

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しかし本書「INTERPRETER OF MALADIES」日本での訳本はコレ)を読んでみると納得の出来。短編集なんだが、どの短編も恐るべき完成度で構築されている。それでいて文章は平易(O・ヘンリー同様)であり、現代文学にありがちなメタ構造や衒学的オシャベリといったギミックは忍んでいないので、日本人でも原文でイケると思う(是非英語で読んでください)。全体のストラクチャー、表現技法、テーマの捉え方、いずれも奇を衒ったものでないが、とにかく良く出来ている。

まずはストラクチャーだが、「短編はこれをお手本に構成を考えなさい」というべきか、そのまま文学部のテキストになりそう。短編ってのは短いので、壮大な起承転結を詰め込むのは難しく、前半(人物描写・コンテキスト設定)→中盤(物語の山、テンションの高まり)→終盤(オチ・驚きと余韻の効果)があればいい。説明に無駄があってはならないので、コレが難しい。本書の中では、タイトル作品「INTERPRETER OF MALADIES」の構成は特に光る。客である観光客女性(Mrs.Das)に勝手に好意をつのらせる観光ガイドMr. Kapsaiの勘違い目線で話が中盤まで進み、最後にはMrs.Dasとの2人きりの会話で驚くべき事実と思い違いが露にされる。「A TEMPORARY MATTER」でもそうだが、男が勝手に勘違いして妄想的に女性に描く思いってのを、ラヒリ女史は本当に良く分かってらっしゃる(笑)。

第2に表現だが、これもまた「一人称・三人称はこうやって使いなさい」とも言うべき使い分けのうまさ。ただいずれの場合も、ラヒリ女史の文章の特徴として、登場人物に過度に作者の思い・狙いを入れ込んでいない、微妙な距離感がいい。読んでいて登場人物たちを鮮やかにpictureできるんだが、その人物になりきるのではなく、その場面の証言者の1人になっているかのような感覚。ある意味、非常に映画的。映画的な見せ方としては、例えば場面展開(回想シーンへの移行など)は、登場人物たちが会話している画面から、カメラが部屋の中のあるモノにフォーカスを変えて、そのモノにまつわる登場人物の記憶を呼びおこす形で行う、等。映画同様、小説というのはワンシーンでも印象的なものがあれば御の字と俺は思っているが、本書ではそんなシーンが実に効果的にはさみこまれている。ついでに言うと、この人は「料理・食べるシーン」の書き方がウマイ。インド料理食べたくなります(笑)

最後にテーマだが、作中の人物は大体、アメリカに住むインド人、あるいはインド人と関係を持つ白人という風に、全てインド人がからむ。もちろんラヒリ女史がインド人だからというのもあるが、非常に身近な人をモデルにして日常生活の小さな事柄にフォーカスした形で書いている。このへん、日本人だがほとんどイギリス人?なカズオ・イシグロとは人物設定・テーマ選択が大きく異なる。表面だけとると、インド人移民1世と2世の価値観対立、アメリカで受けるインド人のカルチャーショック、伝統的な見合い結婚で生じる夫婦間の葛藤、といったテーマで押しているのかなと思えるが、そういうのは「私とは何者か」「他者と分かり合えるのか」といった普遍的なテーマを描くためのツールというか場面設定として使われている(ように見える)。もちろんそこにインド人であるラヒリ女史の独自性が見えるんだが。重みのあるテーマでも、日常生活の域をでない身近なイベント(停電の中、ロウソクをつけてディナーする夫婦、とか)を通して描かれるし、時にユーモアを含む優しい筆致で描かれるので、非常に読後感は良い。同様にシンプルな文章でありながらも、背後に救いようのない虚無感を感じさせるヘミングウェイの短編とは、また異なる。

どの短編もオススメだが、俺が気に入ったのは「A TEMPORARY MATTER」、「INTERPRETER OF MALADIES」、「SEXY」(女性の心理描写、子供の描写がヤバイ)、「MRS.SEN's」(ユーモラスかつほろ苦い。後の初長編Namesakeのネタの一部も見える)、「THE THIRD AND FINAL CONTINENT」だろうか。特に「THE THIRD AND FINAL CONTINENT」は、インド人でありロンドンで勉強し、アメリカで仕事を見つけた主人公(文字通り、3つの大陸をsurviveした)の境地に勝手に思い入れが強くなってしまった。俺もイギリスで少年時代をすごし、今また3つ目の大陸であるアメリカにいるので。100歳のおばあちゃんとのやり取りは、設定としてはかなりベタだがうまくやり過ぎないように抑えていて、ユーモアと切なさを感じさせる。頭の中に映像としてすごく鮮やかに残る作品で、たぶん映画にしてもいいモノになるだろう。最後のこの文章(勝手に俺が訳しました)に向けて全てが収束していく構成は、またしても完璧というほかない。感動しました。

「母国から遠く離れたところで成功を求めたのは私だけではないし、もちろん私がその最初の1人なわけでもない。それでも、これまで私が旅した道のり、口にしてきた食事、出会ってきた人たち、泊まってきた部屋のことに思いをめぐらすと、途方にくれてしまうことがある。どれも特別なことではないようだけど、どれも私の想像を超えたことのように思えるときがあるんだよ」

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ブログ王

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  by helterskelter2010 | 2009-07-09 01:53 | Books

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