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CFOというのも面白い

「Cases in Financial Management」や「Entrepreneurial Finance & PE」を受けていて、CFOというのもなかなかに面白い仕事だなあと思うようになった。投資銀行でインターンをしている時も何が面白かったって、ビジネスと資本市場の間のダイナミックな関係だった。企業のとる経営戦略や発表がいかに株価動向に反映されるか。あるいは逆に、今の株価動向を見てどのような資金調達をどのタイミングで行うのが最適か。企業にとって最適なCapital Structureが何なのか、現金はいくら持てばいいのか(実はこれはコーポレート・ファイナンス理論からは直接導き出せないので、その場その場のビジネス・ニーズと市場期待を考えながら決めていくしかない)。

バンカーはアドバイザーという形でこういう問題の分析・ソリューションの提示を行うが、CFOは我がこととして自社の明日を左右しかねないような財務判断をガチで行わないといけない。俺の父親も企業の財務をやっていたが、今にして面白そうな仕事だということに気がつきました。遅っ!(笑)

CFOがらみのネタとしては、この間「Entrepreneurial Finance & PE」で扱ったケースが面白かった。ケーススタディではたいていディスカッションの後に実際にケースの当事者・企業がどうなったかの種明かしがされるのだが、この時はあるテレコム系ベンチャーの話(どうでもいいが、VC投資ではITだけでなくよく通信系の事業がでてくる。土地勘なさすぎて死亡です。NTTの友達にレクチャーしてもらわないと・・・)。

ベンチャーA社は首尾よくVCの投資をゲット。Pre-money valuationは800万ドルなり。設立3年後にはIPOを達成、なんとMarket capは10億ドルを超える。時は1999年なり。はい、テック・ブームのど真ん中です。市場は加熱している。CEOもCFOも自社株価はovervalueされているとは分かっていたが、IPOをゴールとして決めている企業が、最高の価格でIPOできるチャンスを逃すのもおかしい(VCからのプレッシャーがあるのはいわずもがな)。

さてIPOしたはいいが、周りの企業も高いバリュエーションをつけているし、成長のためのM&Aはさらに過熱化。低いバリュエーションだと他社に買収されるリスクが当然高くなる。ゆえにCFOは自社のバリュエーション(株価)を高めようと思う。株価は収益、期待成長率、割引率の3つで決まる。割引率をいじるのは難しいので、株価を上昇させるには大きく分けて2つの手段しかない(成熟企業にとって短期的な効果のあるRecapもありえるが、A社は成長企業なのこの場合は除く)。

①マジメに OR 不真面目に(不正会計・・・)収益を上げる
②強力なエクイティ・ストーリーを喧伝して収益の期待成長率を上げる


A社はベンチャーなので、もともと現状のバリュエーションも現在の収益でなく、大半は将来に期待されている収益が反映されたものなので、①は難しいし、がんばっても効果は薄い。現状の収益水準よりも、収益が今後高い成長率で伸びていくことを市場に伝える②の方が効果的だ。もちろん市場はアホではないので、「高い成長率を実現します」と口で言うだけではダメで、実際に実弾打って投資を実施しないといけない。そこでA社はガンガン投資して、まだ本業が安定しないのに新規市場開拓をしまくった。しかし大規模投資が完了したところでITバブルがはじけ、A社株価は奈落の底に落ちた・・・・

TECH BUBBLE
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こう言われるとアホな決断して自爆しただけ、という印象を禁じえないが、CFOも株価が過大評価されていること、市場が加熱していることは重々承知していた。CFOはChicago Booth卒業生なので実話を紹介された。「オカシイのは分かっているが、プレーヤーが全員、全力疾走で走っているときに『いや、俺は行かないから』というのは不可能に近い状況だった」という。しかも企業体力のある大企業ではなく、将来キャッシュフローで評価されているベンチャーにとってはなおさらだろう。スピードを落としたら乗っ取られるまでである。いかに資本市場からのプレッシャーが企業戦略の舵取りに影響を及ぼすかが身にしみる実例だ。あまりにもプレッシャーが強いあまり、不正会計に手を出す企業は後を絶たないくらいで・・・

もう1つ教訓めいた話としては、多くのベンチャー創業者は自分の株を売る前に企業破綻して、目も当てられない状況に陥ったこと。自己破産してもIRS(国税庁)の税金は逃れらず、一生税金の奴隷になってしまう人も(最近聞いた話でイチバン怖い)。他方、A社のCFO自身は企業破綻の前にいくらかは株を売っていて、それなりに資産を蓄えることができたらしい。もちろん規定上、IPO直後の高値沸騰の時には容易には売れないので、それからしばらくして少しずつ売っていたらしいが。当時のベンチャーは株価がグングン調子よく伸びているので、「いや、今売ったらもったいない。もう少し待とう。もう数ドル上がったら売るぞ」てなことを繰り返して、結局売らないまま破綻したケースも多いらしい。A社CFOはもともとA社に入社したときから、「リターンとして2,000万ドル程度を目指す」と明確にしていたので、まわりがセレブパーティーでドンちゃん騒ぎしたりコーポレートジェット買ったりと熱に浮かれていた中でも、冷静に市場を見ながら株を売っていたらしい(Chicago Booth生らしい・・・)。教訓として、教授は「売れるときに売っとけ。1000万ドルが500万ドルになっても、十分なカネだろ」と。まあそれはそうなんだが、それも難しいよね。バブルなのは分かっていても、それがいつ終わるのかは誰もわからないからバブルなので(分かっていたら、それは瞬時に株価に反映されてそもそも高値にならない)。

  by helterskelter2010 | 2010-02-07 14:50 | Study

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