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「現場力」も大事。でも「本社力」も大事。③

前のエントリーで、日本の製造業は利益を出しにくくなっている、と述べた。その根拠となるデータを示すのが、これまた以前取り上げた三品氏の「戦略不全の論理」だ。

日本の製造業372社(上場企業)の財務データを長期時系列(1960~2000年)に分析すると、驚くべき事実が明らかになる。1960年以降、製造業の1社当たり売上高は着実に上昇しているのに対し、売上高営業利益率は、(多少の波はあるものの)継続的に下落している。

見事なまでに売上と利益率が逆相関を成していて、その単純相関係数は-0.894にも達する。(折れ線グラフで描くと、丁度バッテン(×)になる)
つまり、日本製造業の売上は40年間にわたって拡大しつづけたものの、その影では利益率が低下する一方という、「利益なき拡大」を続けてきたことになる。

もちろん、個別企業では高い利益率を維持している企業もあるだろうし(トヨタとか)、あくまでこれはマクロで見た結果(詳細は著書を参照していただければ)。でも日本経済を牽引してきたといわれる製造業が、実は利益を犠牲にする(割に合わない)拡大をしてきたというのは、今後の日本製造業の未来を考える上で、抑えておくべき重要なポイントだ。

なぜ日本の製造業の利益率は低下しているのか、それは経営の「戦略不全」のためだ、と三品氏は言う。前のエントリーで僕が述べた「本社力」と似ているのかもしれない。「戦略不全」は、トップが変わらないと治らない。中長期的には、戦略に長けたトップを育成することが大事になる。面白いのは、ここで三品氏がMBAの効用について述べていることだ。MBAには自己選択機能、選抜機能、隔離機能、加速機能(詳しくは著書を読んで)という利点があり、まあつまるところ「戦略に長けた」「事業観を有した」経営者・リーダーを育成するのに有効だということだ。他方で三品氏はMBAの弊害についても指摘することを忘れていない(エリート意識の過度な醸成、等)。本当にそんな弊害(副作用)がMBAにあるのかどうかは、僕も実際体験してみないと分からないが、既存の日本の人材育成・処遇システムでは「戦略」「本社力」で突き抜けた人的リソースが生まれにくいという状況認識は、大いに共感できる。

付け加えるとすれば、三品氏はどちらかというとMBAプログラムでいうところのStrategyコースの重要性を重視しているけれど、僕はそれと同じかそれ以上にEntrepreneurship能力が重要ではないかと思っている。特に先に述べたiPodの事例のようなビジネスモデルを創出する能力というのは、大きな組織をうまくmanageするスキルというよりも、「儲かる」エリアにフォーカスして、そこでアイデアを絞り、外部リソースを使いながらもプランを実行する、というより起業家的なセンスが重要な気がするからだ。ビジネスモデルを作り、評価し、実行できる能力。

でも、こういうEntrepreneurshipを教えられるのは、Entrepreneurを経験したものでないと難しい(全てそうだとは限らないが)。その意味では、僕は本当に米国がうらやましい。若いころに起業経験を有する人間の絶対数が多いし、そういう人がpractitionerとしてビジネススクールでも教えている。日本は、なかなかそういう人が相対的に少ない。

「大企業で何十年もかけて昇進してトップに上り詰める人は、それはそれですごいことだ。でもそういう人で他の企業・業界に行って実力を発揮できる人がどれだけいるのか。日本にはプロ経営者がいないんだ。」

日本におけるPE草創期の大物Sさんは、僕にこう言っていた。
Chicago GSBは、Entrepreneurshipにも非常に力を入れていて、僕の期待にも十二分に応えてくれそうだ(最近、先輩の話を聞いてその思いはより強くなっている)。実際に起業しなくても、僕はEntrepreneurship能力はすごく重要だと思っている。その意味で、どれだけChicagoからtakeawayできるか、期待。

  by helterskelter2010 | 2008-05-07 01:08 | Research

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