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Creative destruction revisited

僕の問題意識にドンピシャの本を購入。今井賢一氏の「創造的破壊とは何か:日本産業の再挑戦」。まだざっと読んだだけだが、議論をするための切り口を提供してくれる。厳密な実証分析を行った学術文献というよりも、big pictureをザクザク論じているものなので、そういうものだとして読めばいい(細かいあら探しは可能だけど、それは建設的な読み方じゃないのでここでそういう突っ込みはやめておく)。
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「産業化の時代」の最終段階において、日本は小型車、エレクトロニクス等でシュンペーター的な「創造的破壊」の波を世界に巻き起こした。
これに対して、情報革命後の「情報化の時代」における日本の成果は著しく見劣りがする。
果たして日本は次の「創造的破壊」を生むことができるのか?
今後10年間の間に何とか順調にやっていく道筋を見つけていかなければ、間違いなく日本は没落の道をたどることになる、と著者は言う。

「政治的」な手詰まり感についてはいろいろ他の本でも言われているけど、「産業・企業」の側からこの問題をじっくり論じようじゃないか、というのが本書の趣旨。資本主義のダイナミズムはイノベーションにあり、との前提のもと、シュンペーターの論考を足がかりに、日本に次の「創造的破壊」は可能かどうか、その道筋を見定めていく作業だ。

結論からいえば、日本の産業は「情報技術」の利用面に注力して、既に強みを持つ資本財産業(機械とか)、自動車産業にその成果を反映させ、経済基盤を確実なものとしていこう、ということ。この「利用面に注力」というところがミソで、背景にはいわゆる「General Purpose Technology」(蒸気機関、鉄道、電力、インターネット等の波及効果が高い技術)は、その技術自体がラディカルなのではなく、その新たな利用方法を開発し、それを普及させるという意味でラディカルな革新をもたらす、という考えがある。
例えば鉄道の場合(19世紀米国)、蒸気エンジンを貨車につけるという技術的な新結合だけではなく、長距離輸送を正確に行うという需要面との新結合において、非連続な革新だった。具体的に言うと、定期的に運行して一般の乗客を乗せるというような新たな「用途」を見出し、その将来「需要」を見通し、かつそれを信用して資金を提供する資本家(銀行とか)を説得したアントレプレナーの能力によって、鉄道は真に革新的な「創造的破壊」の過程を生み出したのだ、と。
(ここはシュンペーターによる有名な説明です)

革新的技術は、その技術的な「スゴさ」だけでは不十分。アントレプレナーが需要を見通して、それをビジネスとして実現化させてはじめて社会にインパクトを与える「創造的破壊」になる。確かに日本の自動車産業が1980年代に躍進したのは、何か全く新しい自動車を開発できたから、ではなくて、むしろ「燃費の良い小型車」(あるいは値ごろで品質の良い高級車?(=レクサス))という時宜に合ったコンセプトを打ち出し、かつプロセス面でのイノベーション(=いわゆるカイゼン)を実現化したからに他ならない。

というわけで日本が立ち遅れている情報技術については、その技術開発ではなくむしろ利用面に注力して、既存の強い産業を強化すりゃいいじゃねえか、という風にもこの本は読めてしまう(全部読んでないので誤読の可能性あり)。

ちょい懸念なのは、それではたしてMSやグーグルのような企業が出現できるのかどうか、ということ。(それはあきらめろ、ということか?)ITビジネスの場合は、革新的な情報技術を内製化できていないとやっぱりグローバルトップになるのは難しいんじゃないだろうか?そうじゃないかもしれないが、例えば楽天がグローバルトップになるとは思えない(ビジネスモデルとしては成功しているが)。

もう1点、気になるのはベンチャー興隆に必要なおカネ、金融の話。米国と比べて日本が圧倒的に弱いのはITと金融。付加価値の高い金融産業で日本がやるべきことはないのか?この問いには本書は応えてくれない。というか、序章ですでにその議論は射程外にする、と言われているので仕方ない。イノベーションに金融バブルは不可避的に付随するのか、ベンチャーキャピタルの日本でのあるべき姿は、とかそういう話は別の本で勉強するか、自分で考えろ。です。

日本でグローバルにプレゼンスの高い企業は?と聞かれて、「えーと、トヨタでしょ、ソニー、松下?あとは、、、うーむ」となるように、今でも日本のグローバル企業とされていうのはオールド・エコノミーに属する企業だ。そういう企業が情報化の果実を獲得して今後も進化していく、というのは1つありうるのだが、現在の状況だけを見ていると、30年後、50年後の日本が心配だ。
こんな問題意識を持つ人にとって、本書はいい頭の体操になることは間違いない。何より楽観的であるのがいい。日本の弱みをウジウジつっつくよりも、将来の理想像に向けて何ができるか、考える方が絶対生産的(バックキャスティングですな)。

「教養を備え、目を見開いた楽観主義は報われる。悲観論者はただ、正しいことを言っているという虚しい慰めを得るだけだ」
(David Landes)

  by helterskelter2010 | 2008-07-05 23:35 | Research

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