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シュレーディンガー「生命とは何か」

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この本はヤバイ。文庫で200ページに満たない小冊子だが、ものすごい世界にトリップさせてくれる。自然科学の古典はほとんど読まないタチだが、これは今読んでも非常に刺激的。1944年出版なので、その後の科学の発展により、本書の中で提示される概念・説明のいくつかはobsleteになったり間違ってたりすることが明らかになっているが(それゆえ自然科学の古典はあまり読まれない)、それでも読むに足る本である。

その理由は2つあり、1つはいわゆる理系・理系志望の人なら必ず高校・大学で習う基本的な生物・物理・化学の諸原理を、非常に分かりやすく解説してくれている点。俺は文系(経済学部)だったし、通っていた私立高校では「文系志望」と決めた瞬間、2年目からは理科科目は1つ(生物)しかとっていなかった。なので物理・化学の知識は皆無に近い(これはこれで問題あるよな・・・)。そんな俺でも、シュレジンガーの説明によって、熱力学法則や量子力学の基礎概念を大体は理解できたし、既に忘却のかなたであった遺伝学の成果についても復習することができた。あんまり難しいのは、理系であり工学の修士号を持つ我が妻から教授いただいたが・・・

第2は、なんといってもシュレジンガーのダイナミックな思考過程を追体験できる面白さだろう。「自然科学、カコイイ!」と思える。関係ないけど、それに比べてやっぱり経済学は「憂鬱な科学」だよなあ・・・がんばって均衡論とか数学的に定式化して、体裁は自然科学の装いをして何とかかっこつけているけど、それも非現実的なムリのある前提条件を設定してうまくいくように作り上げているだけだし。経済学は経済学で、別のVALUEはもちろんあるんだが、やっぱガチの「科学」とは言いにくい。

話はそれたが、シュレージンガーのすごいところは学問領域を飛び越えて、「諸々の事実や理論を総合する仕事に思い切って手をつけ」ていること。理論物理学者でありながら、専門でない生物学(特に遺伝学)の分野に乗り込む。こういう「クロスボーダー」な試みは、口で言うのはカッコイイし、実際口だけの人がほとんだが、本当にやるのは非常に勇気がいること。その上シュレージンガーは、この試みの結果として分子生物学という新しい領域を開拓した。ハンパない。

「人間の体はなぜ原子に比べて大きいのか?」という問いから始まり、しばらくは生物学の観点から遺伝・突然変異の話をしていたかと思うと、今度は量子力学の考え方によって遺伝子の永続性を解き明かし、突然変異と量子飛躍とのアナロジーを示す。そして生命は「純機械的な行動をする体系」であり、物理の一般現象である「エントロピー最大の状態」を回避しようとしているのだ、と結論する。ここらへん、物理学で生命というものを説明するその語り口にクラクラしてくる。そしてこの生命の定義は有名な「負エントロピー」の理論につながり、そのままアクセルは踏みっぱなしで最終章ではウパニシャッド哲学の「梵我一如」の世界へトバされます(笑)。

実にスリリング!ロジックの展開もなるほど、という感じで勉強になる。訳者があとがきで「25歳のとき私は童貞だった」といきなりカミングアウトし、しばし性科学の話を数ページにわたって展開するのもウケた(笑)。岩波文庫の古典は相当読んだけど、この本もヒット。やっぱり古典はいいすね。「このシュレジンガーという男は、すごいぞ!」と興奮する、俺のあまりの理科オンチぶりに、妻はかなり呆れていた・・・・

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ブログ王

  by helterskelter2010 | 2009-07-07 10:20 | Books

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