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Detroit fading ①

アメリカの自動車メーカーが、かなりヤバいことになっている。前からヤバいのだが、もしかしたらもしかするかもしれない再編が起きる可能性が高まっていると思う。

ビッグ3の6月の新車販売台数は前年同期比25.5%減。1970年代末の第二次オイルショックに比肩する落ち込みようだ。
外部環境は、表面的にみると第二次オイルショック時に類似した部分が少なくない。主要なところを挙げれば、以下の3点だ。

①米国景気の後退
②原油価格の高騰
③日系メーカーのシェア拡大

もちろん、「表面的には」似ているが、その裏にある要因は異なる。オイルショックの時は、原油価格高騰は産油国の供給政策による部分が大きかったが、現在は投機マネーの流入が原油価格相場に多大な影響を及ぼしている。①と②のリンクもある。ドル信頼の低下(米国経済の先行きに対する不安)が、先の原油に向かう投機マネーを増大させているという文脈もある。そんな中、日系メーカー(というかトヨタとホンダ)は、燃費の良い小型車(ここまでは70年代と同じコンセプト)と、他社に先駆けたハイブリッド技術(これは現代のコンセプト)で、米国市場で米系メーカーのシェアを食っている、という状況なのだろう。

問題はこれから米系メーカーはどうするか、だ。
オイルショック以後の対応はどうだったのか?

①米政府にロビー活動、米政府を通して日系メーカーの輸出削減要請
②日本の生産システム(トヨタシステム)を徹底的に学習
③トラック系モデルの充実化(ピックアップ、SUV,ミニバン等)

こんなところか。①は有名な話で、いわゆる「日米貿易摩擦」が緊張化した要因の1つ。僕が先週まで勤めていたシンクタンクは、当時の通商産業省側の交渉材料、レポートづくりで奔走していたらしい。さて、①で時間を稼ぐ間、米系メーカーは日本の生産システムを徹底的に分析し、学習した(②)。製造品質に関しては、1980年代と現在を比べると、かなりギャップは小さくなったのではないかと思う。暗黙知を形式知に転換する効率性に関しては、米国は天才的だ。TQCを洗練化させてシックス・シグマを開発したり、現場の知恵をうまくパッケージ化して、ナレッジ共有化を促進する。日本だと現場の技能はその秘匿性がかえって美的価値をもつように尊重される傾向があるが、米国の場合、「おいおい、そんなシンプルに整理しちゃっていいのかよ」というくらい、躊躇なく「わざ」を言語化し、分解し、教科書化する。(もちろん、形式知化しきれない部分は必ず残るし、その部分でトヨタはいまだにコピーされていない。それは例えば「組織能力」というものだ)。
さらに、利幅の高いトラック系モデルの充実化で、米系メーカーは利益を稼ぎ、90年代後半には米系メーカーはほぼ「復活」した。米国市場というのは実は変わった市場で、ピックアップトラックというデカイ車(日本の感覚だとトラック)が非常にウケルのだ。

さて現在は?もう一度第二次オイルショック以降の処方箋を使えるか?ということだが、①は無理だし、おそらくやってもあまり効果ない。日系メーカーの米国現地生産化が進んでおり、米国の重要な雇用主になっている。トヨタなんかはうまく現地の上院議員を味方につけているだろう。②は時間がかかるし、製造オペレーションだけが今回の米系メーカーの不振の原因ではないので、根本的な対策にならない。③は全く駄目だ。原油高はオイルショック時を上回る高騰ぶりで、結果ガソリンをガブ飲みするトラック系(gass guzzlersという)は米国内市場でもサッパリ売れなくなっている。これは製造オペレーションの問題ではなく、どの市場にどのモデルを投入するかという製品市場戦略の問題だ。実際、オペレーションのエリートであるトヨタも、米国で製造販売するピックアップトラックは販売減少で、減産を決めたそうだ(テキサス工場)。

  by helterskelter2010 | 2008-07-08 14:21 | Research

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