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新生ビッグ3、死にゆくビッグ3?

今や米国金融業界では、「新たなビッグ3」が―超短期間のうちに―誕生したといえる。シティ、JPモルガン、バンカメがそれだ。雑誌The Investment Dealer's Digestとか読むと、この新生ビッグ3誕生に対する懸念がいくつか指摘されている。

①急速な寡占化
コレ自体が即問題になるわけじゃないが、その巨大さのあまりに政府の規制コントロールも難しくなるのではないか、そもそもそんな巨大企業がmanageableなのか、リスクを少数の主体に集中させてリスク管理面で危なくねえか、等々、サイズのでかさから派生すると思われるリスク要因が指摘されている。
資産規模で見ると、シティは第4位のウェルズ・ファーゴの実に4倍の規模を誇る。寡占化は確かに進んでいる。
また、M&A自体も緊急的に行ったもの(shotgun marriage)なので、due diligenceもマトモにできていはいない(しょうがないんだが)。

②モラル・ハザード
これもまた企業サイズの問題と関連するのだが、「巨大になればtoo big to failのロジックで、いざとなれば政府が助けてくれる」、というインセンティブが働いている。つまり、事業効率性とか、シナジーとかを目指した成長をするんじゃなくて、単に規模の拡大を追求したM&A、事業多角化が進む可能性がある。そうすると政府の規制もしづらい上に、ビジネスとしての競争力、効率性も落ちんじゃないか。そういう懸念。

さて、他方で今や風前の灯ともいえる状況に陥っているのが、米国自動車業界の「元祖ビッグ3」、GM、フォード、クライスラーだ。3社とも財務的に超ヤバイ状況だし、本業の成績も真っ赤。2008年9月期の新車販売台数は、3社とも前年同月比で2ケタ減少。大型車ビジネスモデル依存の限界が大分前から見えていたのだが、ここにいたって金融危機による消費の冷え込み要因が追い討ちをかけた。かなり気の毒な状況。

そのうちの2社、GMとクライスラーが合併交渉を進めているという。いやあ、本当にがけっぷちだな、お互いのワラをつかんでいる感じだ。なんせこのM&A、事業シナジー面ではmake senseしない。モデルラインナップが重なりすぎているし、技術補完性も少ない。平時であれば「?」なM&Aなんである。

ただ今はGMもクライスラーもいつ倒産してもおかしくない状況。GMはクライスラーのキャッシュが欲しいだろうし、何よりも上記の②、つまりtoo big to failなくらいに企業サイズをでかくして、最終的には政府に救済してもらえれば・・・という動機が見え隠れする。

てなわけで昨今のM&A、平時とは全く異なるロジックでばんばん進んでいる。「時間稼ぎ」、「キャッシュ」、「(政府に頼まれて)他社の救済」、「政府による救済」、こんな動機のM&A。市場収縮すれば企業はサーッと退出する、ていうのがミクロ経済学の基本だけど、現実はそんな風にはなりません。現実の企業はもともと互いに完全に独立でないし、それがゆえにシステミック・リスクが存在する。

それにしても米国自動車業界、やっぱり政府は救済するしかないんだろうなあ。でも救済したところでビジネス(実業)面で回復する見通しが立つとは思えない。イギリス自動車産業も政府が支援して巨大企業(BL)を構築したけど、全然うまくいかなかった。最後はバラバラになって外国メーカーに売られたが、米国もその道をたどる可能性だってないとはいえない。

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ブログ王

  by helterskelter2010 | 2008-10-28 15:39 | Research

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